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雑記・ロシア

 

キックボード

  何度か書いたこともあると思うけれど、ロシアの道は広い。目的地が見えてから到着するまでが思ったより長い。建物は縦にも横にも大きくて迫力があり、周りの人々はわたしよりも15センチ以上背が高くて、なんだかミニチュア人形になったような気持ちになる。そして何よりわたしを驚かせるのは、キックボード及びローラースケートの普及率だ。ラフな格好をしている人もスーツでしっかりキメているひとも、みんなキックボードやローラースケートに乗っている。セグウェイに乗っている人もいる。日本ではそれらは小学生の遊び道具だったり、やんちゃな人が取り組むスポーツだ。日々の当たり前のルーティーンとして、ふつうのひとたちが妙にスタイリッシュに軽やかに それらを乗りこなしているのになんだかくらくらしてしまう。ああ、どれだけ足が長くてもやっぱり遠いもんは遠いんだな。わたしはゆっくり歩こうかな。時間はたくさんある。

 

ばらばら

  9月という中途半端な季節だったからかもしれないけれど、道行く人々の服が、何の参考にもならなかった。6時間も時差があるような遠くの国で、何を着ればいいのか、どんな温かさの服を着ればいいのか。現地の人を参考にすれば間違いあるまいと、毎朝部屋の窓から通りを見下ろすけれど、ますます混乱してしまう。ばらばらだったからだ。Tシャツ一枚の人もいればダウンジャケットを着こんでいる人もいる。サンダルを履いている人もいればブーツの人もいる。半ズボンやホットパンツの人もいれば、タイツを履いている人もいる。そして全員、それがまったく平気なのだ。

  わたしにはそれがおもしろかったし、流行りとか、多数派の意見とか、風潮とか、そういうのに囚われすぎないで、自分の体感はどうなのか みたいなことを信用できているのっていいなあ、と思った。わたしはみんなが半そでを着ているときに自分だけ長袖で 「暑くないの?」と聞かれるのがすごく苦手だ。だけどそれと同じくらい、半そでが苦手だ。 これからは、もうちょっと野生の生き物としての自分を信じてみてもいいかもしれない。がるるるる。

 

地下道

 

  モスクワに多くて日本に少ないもの。花屋(しかも24時間営業)、豪奢な建築としての地下鉄、500円以内で入館できる美術館、記念碑、地下道、アイスクリームの露店、路面電車、仕事帰りにふらっと立ち寄れる劇場。

  日本に多くてモスクワに少ないもの。コンビニエンスストア、灰色のビル、愛想のいい店員、つり革、乗車位置を示すマーク、信号機。

  モスクワには信号機が少なくて、地下道がめちゃくちゃ多い。それにともなってめちゃくちゃ多いのは、ストリートミュージシャンだ。とはいえ、ギターの弾き語りとかバンド演奏は少なくて、バイオリンや移動式のピアノを演奏している人々が大半だ(やけっぱちで豆を入れたペットボトルを振りながらアカペラをやるご婦人もいた)。彼らは、毎日朝から地下道に場所をとって、演奏する。クラシックメドレーやDeep purpleのアレンジが、のびやかに、そして自由に地下道に響く。

  毎朝 なまみの音楽がBGMの生活はいったいどんな感じなんだろう。いつかは慣れてしまって、ただの雑音になってしまうのかな。毎朝 地下道で音楽を生み出す人生はどんな感じなんだろう。幸福そうな人も倦んだ人もいたけれど、すくなくとも地下道での演奏が終わった後の一服が彼らを満たすといいな と思う。

 

砂漠の雪について

  モスクワに多くて日本に少ないもうひとつのものは、乞食だ。朗らかに「こういうことで今ちょっと困っていて......」と声をかける人もいれば、無表情で一日中突っ立っている人もいる。わたしはというとミャンマーのときから何の折り合いもつかないまま、なんとなく彼らから目をそらし続けていたのだけど、地下鉄の通路で「助けてください。息子が死にかけている」と書いたプレートをからだの前に持って、神妙な顔で地面に膝をついているやせぎすの女性を見て、なんだか身につまされてしまった。

  息子が死にかけていることと、地下道でひとびとから好奇の視線に晒された挙句誰からも無視されるのはどちらがつらいんだろう、と思った。余計つらくなるんじゃないか。ともだちは「絶対嘘だもん、ほっときなよ」と言っていたけれど、わたしにとっては嘘かほんとうかはどうでもよくて、どっちにしても困っている彼女、何かをすり減らしてそこに座っている彼女のことを考えずにはいられなかった。まだまだ全然答えは出ないし折り合いもつかないけど、わたしにはわたしの、雪の降らせ方があるはずで、それを探し続けるのはどんなに骨が折れることでもやらないといけないんだろうな。見たくないものは見なくていいし見ようとしたものしか見えない、みたいなことを少し考えました。ウーム

 

 

 

砂漠 (新潮文庫)

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